CASE25 二代目オーナーの苦悩と勘違い 第一章

事例編 ケース25 第一章(全5章)
◎キーワード:借り主との意識のズレが大きな問題に発展する。

今回登場のAさんは、現在では今後の自分の在り方について頭を痛めています。
神奈川県のある都市で大地主の息子さんであるAさんは、自分の母校でもある有名私立高校の教師をしていました。どちらかと言うと理詰めの話しで説得していくAさんにとって、有名私立高校とは言っても最近の高校生の振る舞いに少しばかり愚痴も多くなってきたと私は思っていました。教師という立場から見ても大変だったのだと思います。そんな彼は私よりも2つ年上ですが、7年前にひょんなことから知り合いになったのです。(こんな出会いもあるのか?という「出会い」については、またいつかお話します。)今回から5回に渡り、そのAさんのお話をしたいと思います。

Aさんは、その後私立高校教師を退職し、両親と共にオーナー業を生業とすることになったのです。
ご両親は、それまで全てを取り仕切っていたいわゆる昔ながらのオーナー業だったことで、Aさんは跡継ぎとしてゼロからの手探りでのオーナー業のスタートは確かに大変だったとは思います。賃料回収、小修繕手配等もそれまでは全てAさんの父と母がやっていました。
私たちはその後、その複数ある賃貸物件の管理会社として「入居者募集」や「賃料管理」、また「修繕工事」等に関わって仕事をさせて頂くことになりました。一見オーナー業は順調に見えていましたが、入居者はそういう「想い」ではなかったのです。
いくら両親の協力や言葉添えがあったにせよ、やはり、借主は二代目のAさんに対しては厳しい批判的な目をして心の中は複雑な気持ちだったのです。こういう仕事(管理業務)に携わっていると借主の水面下にあるそういう気持ちが分かることがいろいろなケースであります。

土地・建物を賃貸すると言っても、あくまでも「人が人にモノを貸す・借りる」のであってそこには「感情」が必ず伴います。入居者はあくまで“貸してもらっている”という気持ちが強いのです。
ある意味 謙虚?に下からの目線でオーナー様を見ています。しかし、オーナー様を神様?のようには決して思ってはいません。そこには様々な気持ちが生まれてきます。
特に、この二代目のAさんに対しての様々の思いが、借主の口を通して言葉として私達の耳に届いてきたのです。

“これではいけない!!”と当社も奮起しました。二代目のAさんを「守る」ことも私達の重要な仕事です。「守る」ということは借主の持ち始めてしまったAさんに対する気持ちのズレ、つまりAさんと借主のバランスを保つことがポイントでした。相続における税金対策や法律的なこと以外の、実際の実務を円滑に代々継承させていくこと、このような感情の均衡を保たせることも私達の重要な仕事なのです。

これはよくあることの例えですが、一流料理店では先代が余りに名人過ぎるとその後を継いだ二代目は、仮に先代と同じモノを作った(作れていた)としても、その先代が余りに大きすぎたことで、二代目の仕事が認められないということがあるようです。そういう場合に二代目は、先代とは何か違う一味を打ち出すことが出来れば、先代を超えたと評価されることになるのでしょうが…でもこれが難しい…。特に、古き良き時代のオーナー様からの継承は難しいのです。 今回のAさんは全くこれと同じでした。ご両親の築き上げてきたものがあるが為に引き起こる悲劇なのでしょうか…???。

Aさんは、自分の今後の人生の生業としてオーナー業を選択し、一生懸命取り組もうとしています。このこと自体はとても素晴らしいことではありますが、しかし、一生懸命オーナー業を取り組む事ばかりに目を向けるのではなく、そこには借主側の感情という複雑な要因があるという事を忘れてはいけないのです。

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