業務実例 ケース16
案件の奥に潜む様々な事情によって対処の仕方は異なってきます。
◎キーワード:「現実を見つめ、勇気を持って遺言書に記す事は、残された家族への思いやり」
★背景・状況
このお話は、以前にご自宅の買い替えをお手伝いしたことがあるお客様のお話です。一人暮らしのこのお客様は、老後の一人暮らしということもあり、セキュリティ面でも万全で安心した暮らしが出来る住まいにしたいということで、長年住んできた一戸建てを売却して、分譲マンションへの買い替えを希望されました。しかし、実際に売却するにおいて、持分や登記上の問題で少しばかり複雑な権利関係であったため、正式に売却出来る状況にするには何ヶ月間も要しましたが、何とか無事完了しました。この詳細については、別の機会にお話しをさせていただきたいと思います。
苦労して人生を歩んできたことは常日頃から伺っており、長年住んできた思い入れのある一戸建ての家を売却して、新しい住まいで新生活を始めるのだから、これからの人生も持ち前の元気で頑張ってほしいなぁ〜と、私は心から願っていました。その後も時々お会いしていましたが、ある日、私の携帯電話へその方から連絡が入りました。
「戸谷さん・・・・・折り入って相談があるのですが・・・。お時間頂戴出来ませんか?」いつもの元気な張りのある声のトーンと違う様子。
「どうしたんですか? 何か困ったことでもあったんですか?」
「いぇ・・・・・お会いした時に、じっくりとお話したいのですが・・・・・」
何やら変だぞ・・・・・ということで、早速お会いする事になりました。
「実は、戸谷さん・・・・・私にもしものことがあった時は、きちんと相続が出来るようにしておきたいんですが・・・・・。」
これが相談の内容でした。
★取り組み
人が亡くなった場合、生前に自分の財産を誰にあげるか、はっきり決めていないケースがよくあります。このような時には、誰が、被相続人の財産を相続することが出来るか民法で決められているのは、皆様もご存知のことでしょう・・・・・・・。配偶者・子供・父母や祖父母・兄弟姉妹が法定相続人であり、相続人になれる順位が決まっている訳ですが、これは本来、相続人間のトラブルを出来るだけ少なくなるように、一定の順番を決めてスムーズに財産分けをするのが目的です。しかし、そうは決めてあったとしても、その通りにはなかなか上手くはいきません。私の周りにも兄弟間で大揉めの方々もたくさんいます。そこで、生前にきちんとした形で財産をどうするのか、きっちりと決めておくことも、残す側の大切な役割だと私は考えています。そこで遺言をしておこうという方が多くなってきました。
今回のこのお客様は、子供や両親・祖父母はいません。兄弟はいましたが、何十年も会っていないので、今迄自分のことを親のように面倒を見てくれたMさんに自分の財産などを残してあげたいということでした。手法としては、死因贈与という形も考えましたが、この死因贈与というもの自体は「契約」にあたるので、本人がまだ元気な時にMさんと死因贈与契約をすることになります。つまり、本人が亡くなる前に亡くなった時にどうするかという内容の契約を事前に交わすことになるので、その方が亡くなった時に、Mさんのことを悪く言う人達もあるだろうからという想定に対する配慮も必要となります。
相続にはその方の人生に応じて様々な問題が絡み合ってきますので、人の事情や感情も含めて慎重に対処する事が重要です。今回は様々な事柄を考慮に入れて、公正証書による遺言で対応することになりました。その後、公正証書作成のための準備書類として印鑑証明や戸籍謄本等の書類を揃えてもらい、遺言執行人も決まり、無事に完了しました。